米国の経済誌フォーブスに、フェンダーのCEO アンディ・ムーニー氏のインタビューが掲載されました。
音楽および楽器業界の現状や、フェンダーの取り組み、そしてライバルであるギブソンの不振について、率直に語った内容の一部を抄訳してご紹介します。
フォーブス:ギターはベビーブーマー*の楽器です。なぜあなたは楽観的に捉えているのですか?
(*訳注:第二次世界大戦後、兵士が帰還し出生率が上昇した時期に生まれた世代のこと。一般的に1946年から1964年生まれを指す)
アンディ・ムーニー(以下AM):現在の状況がポジティブだからです。ライブと録音された音楽の売上は過去最高で、さらに成長し続けています。
1億2500万人もの人々がデジタルストリーミングサービスを利用しており、こちらも伸び続けています。
LiveNation によると、昨年ライブに行った人の数は、前年比21% 増の8200万人。
スポティファイやアップルミュージックが音楽業界を縮小させるという兆候はありませんし、世界最大のイベント会社であるLiveNation は11年連続で成長しています。
フェンダーの場合は、ソーシャルメディアやデジタルチャンネルを最大限に活用し、時代に合った製品を投入し、時代に合ったマーケティングを展開することが、とてもうまくできていると思います。
我々はマーケティングへの投資を増やし、ネット上の人々へのアピールを強化しています。
フォーブス:実店舗を構える販売店の苦境は影響していますか?
AM:いいえ。業界紙は昔ながらの家族経営の店を中心に扱いますが、すでにその手の店は主流ではありません。
現在の楽器店には、ネット販売をしないリアル店舗のみの店、両方やる店、そしてアメリカにおけるReverb やSweetwater、欧州におけるThomann のようなネット専門店の3種類があります。
それぞれの状況はというと、まずリアルオンリーは現状維持。両方の店は一桁から二桁台前半の成長、そしてオンライン専門店は右肩上がりです。
フォーブス:公式サイトの直販はどうですか?
AM:北米、欧州、日本で直販を展開していますが、売上は微々たるものです。
左利き用のギターやバディー・ガイモデルといった、店頭であまり見かけないモデルに注力しています。
フォーブス:では楽器店のネット通販の売上はどうでしょう?
AM:地域によって異なります。北米では総売上の半分が、なんらかのオンライン販売によるものだと推測しています。過去3年で35% から50% へと増えました。
フォーブス:将来的に楽器業界はネット販売のみになると思いますか?
AM:今後もネット販売の割合が増えるのは避けられないと思いますが、どこまで行くかはわかりません。
ただギタリストは買う前に実際に弾いてみたいと思う生き物なので、割合は他の業界より低くなると思います。
(中略)
フォーブス:初心者向けの施策は打っていますか?
AM:2年ほど前、我々はギターを初めて買う人について大規模な調査をしました。我々はデータが欲しかったのですが、誰も持っていなかったのです。
調査の結果、まず我々が毎年販売するすべてのギターのうち、45% を初心者が買っていることが分かりました。これは我々の想像を遥かに超える数字です。
そして初心者の90% が、最初の12か月のうちにギターをやめてしまいます。
一方で残りの10% は、最初に買ったギターを使い続けるのではなく、複数のギターやアンプを購入する傾向にあります。
加えて新たにギターを始める人の50% が女性であることもわかりました。
彼女たちはリアル店舗を敷居が高いと感じており、ネット通販を利用する割合が高めです。
そして最後の発見は、初心者はレッスンに楽器の4倍以上のお金をかけているということです。
これらの事実は色々なものを形作りました。我々がFender Play というオンラインレッスンサービスを始めたのは、楽器とは別の新たなビジネスチャンスがあると思ったからです。
レッスンというと教室に通うイメージですが、世界的にはオンラインレッスンが主流になってきています。
そして女性のオーディエンスへのアピールも強化する必要があるので、契約アーティストや宣伝画像に使う女性、そしてウェブマーケテイング全般について日々検討しています。
フォーブス:マーケテイングへの投資は効果がありましたか?
AM:Fender Play や各種マーケティングを実施して、ギターに興味がなかった人にギターをやってみたいと思わせることができたのは、衝撃的な出来事でした。
北米での売上は好調に推移しています。昨年11月から今年1月にかけて、売上は13.5%、15%、15% と増え続けています。
ここまでの成長率は、この業界では久しく見られなかったものですし、我々は業界全体よりも速いペースで成長しています。
ここ最近伝えられているギブソンの不振は、彼らが自ら招いたものであり、業界の現状を表しているものではありません。
フォーブス:カリフォルニア・ギター*のデザインはどこから来たのでしょうか?
(*訳注:ストラトのヘッドを持つフェンダーのアコースティックギターのこと)
AM:現代の演奏家は、高品質、軽量、カラフル、そしてカスタマイズできる楽器を求めています。つまりレオのデザインそのものです。
我々はその考えを、現代のアコースティックプレイヤーにも伝えたいと考えています。
6個のペグが一列に並ぶヘッドストックは、レオがライブ中のチューニングのしやすさを考えてデザインしたものです。つまりあの形は機能を追求した結果です。
我々は同じようなギターを作るのではなく、殻を破ろうとしているのです。
カリフォルニアシリーズは、ひと目でフェンダーのギターだと分かりますし、弾き心地はエレクトリックギターに近く、カラーも豊富に用意しています。
私はこのギターを、我々とともに成長してくれる若いギタリストに広めたいと考えています。
抄訳は以上です。
スコットランド出身のムーニー氏が、フェンダーのCEO に就任したのは2015年6月2日。
その前はクイックシルバーのCEO、ディズニー・コンシューマー・プロダクツの会長、ナイキのCMO(最高マーケティング責任者)などを歴任しています。
いずれも楽器業界とは無縁の会社ですが、ギター歴は40年以上で、フェンダーのギターを30本以上所有するコレクターでもあります。
そんなムーニー氏のインタビューは、具体的な数字を挙げて説明しているのが印象的です。
何かアクションをする際は、まず徹底的に調査をしてデータを集め、それに基づいて行動するという、いわゆるデータドリブンな経営者と言えます。
苦境が伝えられるギブソンとの差は、つまるところはCEO の差だったのかもしれません。
ソース:Forbes - For Fender Guitars, The Future Is Digital And Female
参考:FMIC - FENDER MUSICAL INSTRUMENTS CORPORATION APPOINTS ANDY MOONEY TO CEO
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