そこで本記事では選ぶ際の参考として、国内でも入手しやすい現行の12AX7 / ECC83 について、海外の小売店によるレビューの抄訳をお届けします。引用元はともに米国のThe Tube Store とAntique Electric Supply です。
取り上げるメーカーの詳細は、当ブログの「コラム:真空管製造会社と選別会社まとめ 2015年版」をご参照ください。
はじめは米国New Sensor の製品から。エレハモの創業者マイク・マシューズ氏の会社で、真空管はロシアで製造されています。
製品名:Electro-Harmonix 12AX7EH (サウンドハウス販売ページ)
The Tube Store (以下TTS):同じNew Sensor が製造するSovtek 12AX7-LPS のラベルを貼り替えたものではなく、構造とパフォーマンスも異なる。
12AX7EH はバランスのとれたサウンドで、ノイズはとても少なく、低マイクロフォニック(注1)。この低マイクロフォニックは、短いプレート構造もしくは素材によるものと思われる。
いくつかのサンプル管をプリアンプ、トーンスタック、位相反転など様々な位置で試したところ、いずれも素晴らしい結果が得られた。なお個人的にはリバーブ用にはゲインの低い12AT7 のほうが好みだった。
手持ちのアンプにEH を使うことで、マイクロフォニックや不要なフィードバックを消すことができた。この真空管が優勝だ。買って試すといい。君が探し求めていた真空管はこれだ。
評価 (5が最高)
マイクロフォニック:5
ノイズ:3
トーン&ダイナミクス:4
TTS 価格:14.95ドル
Antique Electric Supply (以下AES):強力なバイト(噛みつき)感と歪みやすさが特徴
評価 (ノイズは4段階で1が最も低雑音)
ノイズ:2
ゲイン:7.7
低域:7
中域:8
高域:8
(注1:マイクロフォニックとは、真空管の部品が揺れてノイズが発生し、それがスピーカーから再生される現象のこと。特にコンボアンプはスピーカーと真空管がひとつの筐体に収まっており、両者の距離も近いので、スタックアンプよりも振動を拾いやすい傾向があります。本記事の最後にわかりやすい動画を貼っています)
製品名:Sovtek 12AX7-WA/WB/LPS (サウンドハウス販売ページ)
TTS:WA/WB - この2本は本質的に同じサウンドなのでまとめてレビューする。唯一気づいた違いはWB の方がわずかにハイゲインということぐらいだ。
多くのアンプメーカーがこの2つをOEM 採用しているのは丈夫さが理由だろう。いずれもフルボリュームだとダレやすいがマイクロフォニックではない。なおこの手のテストは真空管をダメにする可能性があるので家では試さないように。
サウンドは最高とは言えないし、時折ポップノイズを出したりカチカチ鳴ることもある。音質は無個性だが許容範囲。安価なので予算が限られているなら魅力的といえる。アンプメーカーは標準搭載する真空管に合わせて回路を設計する、ということも知っておいてほしい。
私には中国製の真空管を愛用している友人がいるし、好みは人それぞれだろう。ソブテックが好きなら使ってみるといい。特にハイゲインサウンドにエフェクトを多用する場合はよいと思う。
LPS - LPS はSovtek が新たに設計した真空管で、音質も飛躍的に向上している。巨大なリブつきプレートを備え、再生力も素晴らしい。サウンドはとてもスムースで、周波数帯域のバランスも良い。
しかし大きなプレートはマイクロフォニックの原因になりやすく、特にコンボアンプを大音量で使う場合は問題になる。
振動しやすいコンパクトなハイゲインコンボアンプにはお薦めしないが、良質なゲインと低ノイズを両立した、ソブテックの12AX7 ではベストと言える製品だ。
なおLPS はフィラメントがほぼ完全にプレート内に収まっているため、電源を入れても光りが見えないが、仕様なので問題ではない。
評価
マイクロフォニック:WA/WB 5、LPS 3
ノイズ:WA/WB 2、LPS 4
トーン&ダイナミクス:WA/WB 2、LPS 5
TTS 価格:
WA - 16.95ドル
WB - 17.95ドル
LPS - 15.95ドル
AES:
WA - スムースかつタイト。暖かみのある中低域。高域は控えめ。
WB - WA よりゲインが高く、バイト感があり、歪みやすい。
LPS - スムースかつタイト。WA よりも暖かみのある中低域と存在感のある高域。
評価 WA/WB/LPS
ノイズ:3/3/4
ゲイン:1/8/5.7
低域 :1/9/5
中域 :1/8/6
高域 :1/7/6
製品名:Tung-Sol 12AX7 リイシュー (サウンドハウス販売ページ)
TTS:真空管のトーンを表現する言葉は限られていて、そのほとんどはクリシェ(使い古し)だ。
タングソルの12AX7 は、中国製12AX7 のゲインとドライブと英国製Mullard やBrimar のようなピュアトーンを併せ持つ。
あるとき2台のアンプが届いた。オーナーはオーバーホールが必要だと思っていたが、検査してみると深刻な問題はなく、付いていた真空管のテスト結果も良好だった。
そこで検討の末、各アンプに挿さっていたNOS のMullard とRCA を1本ずつTung-Sol リイシューに交換してみることにした。
オーナーは交換後のサウンドに感動し、アンプが完全にレストアされたように感じていた。信じられないかもしれないが事実だ。
評価
マイクロフォニック:5
ノイズ:4
トーン&ダイナミクス:5
TTS 価格:16.95ドル
AES:パワフルかつタイトで、パンチがあり、明瞭。
評価
ノイズ:1
ゲイン:8.3
低域:9
中域:8
高域:8
製品名:Mullard 12AX7 / ECC83 リイシュー
TTS:よい真空管だがギターアンプよりもホームオーディオに向いているように感じる。バランスの取れた2つの三極管を備え、周波数帯域もフラット。NOS のMullard と同様に、Tung-Sol よりもわずかにフラットなサウンドだ。
平均よりも大きめなプレート構造にもかかわらず、マイクロフォニックに悩まされることはない。テストに使った2本のトランスコンダクタンスは、同じく2本用意したNOS のサンプルと同じだった。
間違いなくハイゲインではないが、低ノイズかつスムースなトーンは聴いていて疲れない。
個人的にギターアンプ用の12AX7 では、高域と低域を強調するTung-Sol が最も気に入っている。Mullard はトーンに色付けせず、JJ のECC83S よりもスムースに聴こえる。
ハイファイオーディオの世界ではムラードが最高だと思うが、ギターアンプにはより安価でベターな選択肢がある。
評価
マイクロフォニック:5
ノイズ:5
トーン&ダイナミクス:4
TTS 価格:22.95ドル
AES:パワフルで、今回比較した中では最高のゲインを備える。歪みやすく、高域の倍音成分に富む。
評価
ノイズ:3
ゲイン:10
低域:10
中域:10
高域:10
製品名:Mullard CV4004 / 12AX7 リイシュー
TTS:見た目は古いムラードとは似ても似つかないが、多くの魅力がある。プレートが小さいのでハイゲインアンプに向いている。
大きなプレートを備える古いムラードは、そのゲインと描写力でオーディオシステム用として高い人気がある。それら新旧両方の特徴を備えるリイシュー版はマーシャル・スタックに最適だ。
小さいプレートはノイズを減らし、電気的・機械的ノイズもない。それには厚みのあるボトルと整然とならんだ内部構造も貢献している。
もしTung-Sol の12AX7 が気に入っているなら、きっとこれも気に入るはずだ。ゲインは同等だが、より静かで、暖かみという点では上回っているように聴こえる。
評価:なし
TTS 価格:23.95ドル
AES:レビュー・評価ともになし
製品名:Svetlana 12AX7 (サウンドハウス販売ページ)
TTS:サンクトペテルブルクにあった本家Svetlana (Winged C ロゴ) は、数年に渡り良質な12AX7 を作ろうとしてきたが、ほとんどが失敗に終わっていた。
New Sensor がサラトフで製造するSvetlana (S ロゴ) は、エレハモおよびTung-Sol の12AX7 と同じ系統に属する。これら3本は本質的に同じだ。大きな違いはプレートのコーティング、ゲイン、音質。NS 版スベトラーナはEH より少しだけスムースで、ゲインはTung-Sol よりも低い。
もしエレハモにピンと来ず、タンソルのサウンドが荒いと感じるなら、この真空管を試してみるといい。良いプリ管に必要なすべての要素を備えている。
低ノイズでマイクロフォニックに悩まされることもなく、サウンドはとてもクリアかつオープン。高域が強すぎるということもない。
造りはより高価なタンソルと同等なうえ、独自の個性を備えることを考えると、この管の価格は素晴らしい。サンプルを見た限りでは信頼性も高そうに感じた。
もしJJ ECC83S が気に入っていて、少しだけ明るいサウンドが欲しいなら、この真空管を試してみるべきだ。
評価
マイクロフォニック:5
ノイズ:5
トーン&ダイナミクス:4
TTS 価格:16.95ドル
AES:レビュー・評価ともになし
製品名:Genalex Gold Lion ECC83 / B759 (アマゾン販売ページ)
TTS:Sovtek 12AX7-LPS、Sovtek 5751、Mullard に続く、ロシア産の素晴らしいラージプレート双三極管。
パッと見は4本とも同じに見えるが、細部に注目すると構造とプレートのコーティングが異なることに気付くだろう。
聴き比べると違いはより顕著になる。Gold Lion はとてもスムースで耳触りがよい。この管の特徴はワイドな中域にあると思う。
オーディオ機器でもギターアンプでも、耳につく高域と締まりのない低域は聴いていて疲れるし、アンプ自体に問題があるように思えてくるものだ。
ゴールドライオンのヴォイシングは、ふくよかな中域と、しっかりとコントロールされた高域と低域に特徴がある。
この真空管は古い真空管ラジオに最適だと思う。またMarshall JCM800 のブライトチャンネルが発するクレイジーな高域を抑えるのにもぴったりだ。
そして何よりもこの管は、コンボアンプに挿して大音量で鳴らしてもフィードバックが発生しないのが素晴らしい。やっと見つけたよ。
この真空管を最初のゲインステージに挿すことで、オーディオ機器では最高の再生能力を、ギターアンプでは高出力なピックアップと組み合わせることで暖かくクリーミーなドライブサウンドを得られるだろう。
評価
マイクロフォニック:4
ノイズ:5
トーン&ダイナミクス:5
TTS 価格:41.95ドル
AES:レビュー・評価ともになし
New Sensor は以上です。続いてはスロバキアのJJ Electronic 製品について。
(Image from Wikipedia)
製品名:JJ ECC83S (12AX7) (注2) (サウンドハウス販売ページ)
TTS:この真空管は多くの12AX7 とは異なるプレートデザインを備えている。一目で丈夫とわかる造りはツアーの多いミュージシャン向きだ。
このコンパクトなプレート構造は、サウンドやダイナミック・レスポンスを犠牲にしていない。とてもバランスの良いサウンドと感じた。
他の真空管ほどの豊かな倍音成分は無いが、ノイズやマイクロフォニックといった心配なしにハイゲインサウンドを提供してくれる。コストパフォーマンスは素晴らしい。
もしコンボアンプにPhilips の真空管を挿していてサウンドがリッチすぎると感じている場合、JJ ECC83 はその解決策になるだろう。
評価
マイクロフォニック:3
ノイズ:4
トーン&ダイナミクス:4
TTS 価格:10.95ドル
AES:スムースで暖かいサウンド。歪みやすく、高域の輝くような倍音を備える。
評価
ノイズ:2
ゲイン:2.7
低域:2
中域:3
高域:3
(注2:ECC83 と12AX7 は同じ真空管の欧州名と米国名です)
製品名:JJ ECC83-MG
TTS:ECC83 MG (MG = Mid Gain) は優れたサウンドの真空管だ。通常のJJ ECC83S との音量差は感じられなかったが、音色の違いはすぐにわかった。
ECC83S とくらべると、MG はより中域に集中しているように聴こえる。これはオーディオ機器ではさておき、ギターアンプでは素晴らしい特徴だ。
低域が抑えられることで、一般的なフェンダー・トーンスタック特有の毛羽立ちがわずかに減る。ボトムエンドは広いが、アンプ本来の低域を拡張するほどではない。
小型のプレート構造はマイクロフォニックを低減するのでコンボアンプに最適。マーシャルユーザーが愛するチャイナ管の交換相手としては最高だろう。
MESA/Boogie に挿せばブギーし続けるし、Fender にもよい。手頃な価格で真空管による音の変化を試したい場合は候補に入れるべき製品だ。
評価:なし
TTS 価格:12.95ドル
AES:スムースで暖かいサウンド。歪みやすく、輝くような高域倍音を備える。
評価
ノイズ:3
ゲイン:5.7
低域:5
中域:6
高域:6
製品名:JJ ECC803S (アマゾン販売ページ)
TTS:プレミアム品質のECC803 は、あらゆる12AX7/ECC83 と互換性がある。暖かくフルサウンドでハイゲインな真空管だ。
ハイファイ機器とギターアンプの両方で素晴らしいサウンドを鳴らすが、ギターアンプでは気をつけるべき点がある。
長いプレートを備えるため、非常にマイクロフォニックになりやすい傾向がある。そのためコンボアンプやハイゲインステージでの使用はおすすめしない。そのようなアンプには通常のJJ ECC83S がよい。
評価:なし
TTS 価格:13.95ドル
AES:タイトな中域と鐘のような高域
評価
ノイズ:2
ゲイン:6.3
低域:5
中域:7
高域:7
最後は中国Shuguang / 曙光電子。いわゆるチャイナ管の製造元で、多くの選別会社が採用しています。
製品名:12AX7A (サウンドハウス販売ページ)
TTS:そのゲインとバイト感で多くのマーシャルオーナーが愛用している真空管。Penta、Ruby Tubes、Groove Tubes など多くの選別会社がラベルを貼り替えて販売している。
評価:なし
TTS 価格:9.95ドル
AES:レビューなし
評価
ノイズ:3
ゲイン:4.7
低域:4
中域:5
高域:5
製品名:12AX7B (サウンドハウス販売ページ)
TTS:ハイゲインなギターアンプに最適。同じ中国製の12AX7A よりも少しゲインが高く、ノイズも少ない。
評価:なし
TTS 価格:11.95ドル
AES:リブランド品の定番といえる中国製真空管の「B」バージョン。サウンドは完全に同じではないが、かなり似ている。
評価
ノイズ:3
ゲイン:5.7
低域:5
中域:6
高域:6
抄訳は以上です。販売店の書いたレビューということを踏まえ、あくまでも参考として捉えてください。
レビューで頻出した用語をざっくり説明すると、まず「プレート」とは真空管内部にある電極板のこと。12AX7 では平行に2枚配置されます。
下の画像は左がショートプレートのECC83S、右がロングプレートのECC803S。ともにJJ の製品ですが、一目で違いがわかると思います。
プレートは大きい(長い)ほどサウンドがクリアになり倍音も豊かになるという説と、音質へ影響を与える要因はプレート以外にも多々あるので一概には言えないという説があります。
いずれにせよ大きいほどマイクロフォニックになりやすいのは間違いないので、特にコンボアンプの場合は意図的に小さいものを選ぶというのもアリかと思います。
次にマイクロフォニックについて。プリ管とパワー管をそれぞれ動画で紹介します。
はじめにプリ管から。動画内で鳴っている笛のような音が、マイクロフォニックなプリアンプチューブによるものです。細い木の棒で真空管に触れて振動を止めると音も止まります。
続いてパワー管。右から3本目を叩いた時だけスピーカーからコツコツと音が鳴ります。
こういった事態を防ぐには、真空管の選別設備を持つ販売店を選ぶことが重要です。設備を持たない販売店から購入する場合は、今回取り上げた製造会社の製品ではなく、Groove Tubes やRuby Tubes、TAD、PM といった選別会社の製品を選ぶことで、割高にはなりますがトラブルの可能性は減らせます。
本記事では12AX7 のレビューのみを紹介しましたが、TTS とAES のサイトには他のプリ管やパワー管のレビューもあるので、ぜひチェックしてみてください。
参照元
The Tube Store
Antique Electric Supply
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12AX7系で最もハイゲインな真空管はどれでしょうか?
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