2017/12/01
Cakewalk の自称元社員が内情を暴露「開発者より管理職の方が多い」「SONAR X1 は荒削りすぎた」「飲むしかねぇ」
ギブソンがCakewalk の実質的な閉鎖を発表し、世界中の音楽関係者を驚かせたのもつかの間、今度はReddit にケークウォークの元社員を名乗る人物が降臨し、ユーザーからの質問に答えて話題になっています。
本当に元社員なのか確証はありませんが、なかなか興味深い内容だったので、その一部を翻訳してご紹介します。
Q:ジーザス。何から聞いたもんかね。この決定は財政面が理由なのかな。ここ数年のSONAR は久々に調子が良かったと思うんだけど。ケークウォークは赤字だったの?
A:赤字だった。再建プランはあったけど、ヘンリー (Henry Juszkiewicz、ギブソンのCEO) を満足させるだけのカネを稼げそうになかったから中止になった。
これは想像だけど、必然的に高い給料を貰っている無能な管理職をカットすることになるし、ギブソンは現場の声より管理職の声を重視する会社だから、真剣に検討されなかったのかもしれない。
自分は下っ端だったから本当のところはわからないが、ヘンリーは過去の業績にご立腹で、そもそも続ける気がなかったような気がする。
ギブソンはこっちの仕事やユーザーを分かっていなかったから、いずれにせよ (ケークウォークの買収は) リスキーな動きだったと思う。
Q:今はどんな風に過ごしてる?
A:飲んだくれてる。あっという間の出来事だったんだ。偉大なる経営陣様に媚びへつらった奴が残り、自分たちは追い出された。
驚いた点が2つある:
・開発も最初のアップデートもいきなり中止になった。売上増と新規ユーザーの獲得に繋がる可能性があったのに。
・カネになりそうな新機能を開発していて、数日後にリリース予定だった。
Q:誰かがケークウォークを買ったら、従業員は全員戻ってくると思う?
全員を戻すのは間違いだと思う。利益を出すには捨てなきゃいけないお荷物がいたからね。
振り返ってみると、最後の方は開発者よりも「マネージメント」関係の人間の方が多かったな。
Q:ケークウォークのCEO からコメントが無いのはなぜ?
A:ケークウォークにCEO は居ない。ギブソンのプロオーディオ部門の責任者がケークウォークも見ていたんだ。
彼女は有能だったけど、ソフトウェアに関する知識が皆無な上に、最高に無能な奴を信頼してた。
そいつはケークウォークでセールス部門の責任者を務めていたんだけど、ギブソンに移籍したという噂を聞いて爆笑したよ。
だって奴はクソ無能で、ソナーについては初歩的なことしか知らなかったし、セールスとしての能力も最低だったんだ。
(移籍できたのは) プロオーディオの責任者と仲が良かったってだけさ。
Q:直近の出来事は除くとして、ケークウォークでの日々はどんな感じだった?
A:チャレンジングでエキサイティング、そして楽しかった。あと長い。もう一度やれと言われたら喜んでやるよ。
自分が大切にしているものについて、ユーザーと語り合い情熱を分かち合うのは素晴らしい経験だった。
給料はクソだし、ボストン (ケークウォークの所在地) で生活するなら場末のファミレスでサンドウィッチをブン投げてたほうがよっぽど稼げるけど、良い仕事だったよ。
Q:そもそもなんでギブソンはケークウォークを買ったんだろう?
A:ギブソンがWOOX / Philips Audio を買収してから風向きが変わった気がする。
具体的な金額は知らないけど、あの買収がギブソンの資金繰りを苦しくしたんじゃないかな。
ギブソンはつい最近Neat Microphones* も閉鎖したし、今後も終わるブランドは出て来ると思うよ。
(*Blue Microphones の創業者を迎えて立ち上げたマイクブランド。2014年12月の誕生から、わずか3年弱で終了しました)
Q:フーバー (Michael Hoover、ケークウォーク元代表) が退職してたことをすっかり忘れてた。
これについてヘンダーショット (Greg Hendershott、ケークウォーク創業者) がコメントしてないのは驚きだね。
A:ここ最近のグレッグの様子を見るに (GitHub でストーキングしてるんだ)、彼は新しい道を進んでいるようだから、コメントはしないと思う。
ケークウォークのこれまでの経緯を主観でまとめてみると:
まずフーバーが代表に就任。停滞感が漂う中、ギブソンに買収された。Rapture Pro のようなクソをリリースしたことで資金は枯渇し、停滞感は強まる一方だった。
(訳注:ケークウォークの創業は1987年。1995年から2013年まではローランドの、2013年からはギブソンの傘下。ヘンダーショットは2012年に退社しています)
笑える話があって、フーバーは来客用ドアの開閉ボタンを押すためだけに人を雇っていたんだ。
その人はボタンを押すだけで何年も給料をもらっていた。自分が話した人はみな口を揃えてフーバーを非難していたよ。
その後、代表がノエル (Noel Borthwick、ケークウォークの最高技術責任者) に変わる。
ソナーのライフタイム・フリーアップデートプランを開始 (2016年6月)。プラン自体は良かったが、開発部門が足を引っ張り、リリースは遅れ、当初の予定通りには進まなかった。
そして製品知識のある新しい人が代表に就いた。物事が軌道に乗り始め、新しい資金源も機能していた。
しかしソフトの方は時間が必要で、残念ながら色々と遅すぎた。クソマネージャーどもは新代表をこき下ろし、ギブソンは閉鎖を決めた。
Q:ソナーユーザーにオススメのDAW ってある?ケークウォークの社員が最もリスペクトするDAW も教えてほしい。
A:ソナーユーザーに限っても、ワークフローは人それぞれ異なる。社員の好みも千差万別だね。いろんなアイデアを持ち寄れるし良いことだと思う。競合がいないのはユーザーにとって良くないしね。
自分からのアドバイスは、あらゆるDAW のデモ版を使ってみること。ピンと来るか来ないか判断するためにね。
Opcode のVision* は、長いことアップデートされていないし忘れよう。
(*1985年に誕生したMac 用の音楽制作ソフト。1998年にギブソンが買収したものの、わずか1年後に開発を終了。つまりギブソンが音楽制作ソフトを潰したのはソナーで2度目)
Q:色々と話してくれてありがとう。ソナーの経営陣と開発者は、スタッフビューが使い物になるのを25年も待っていたユーザーに対してどう思ってる?
君たちはユーザーからの要望を気にしていた?それとも無視していた?
A:自分の経験から言うと、みな気にしていたと思うし、改善したいと思っていた。
しかしリソースは不足していたし、根底には「手間はかかるが儲けは少ない」という問題があった。
ノーテーションのハードコアなユーザーにはFinale やSibelius があるから、そもそもSONAR では勝負にならなかった。
Q:ソナーの終了は、ライフタイムアップデートプランを始めた時点で決まっていたんじゃない?
X シリーズからアップグレードしていないユーザーから手早く金を集めよう、的な。
A:その想像は外れだよ。ライフタイムプランはケークウォークが考えたもので、ギブソンではない。
ライフタイムプランの狙いは:
・FL Studio ような無料アップデート方式を採用する
・魅力的なアドオンを提供する:Project5 のような追加コンテンツを、ユーザーが自由に買えるようにする。Drum Replacer やAdaptive Limiter のような、必要に応じて使える機能になるはずだった。
・生涯無料アップデートという餌で、新規ユーザーを大量に釣る
結局これらの計画はうまくゆかず、6-8か月ほど停滞し、使える/売り物になる機能やプラグインも生み出せなかった。
Adaptive Limiter は素晴らしかった。計画通りに進められず、高品質なエフェクトを生み出せなかったことが恥ずかしいよ。
開発系とは別の話をすると、当時の責任者はマーケティング部門とサポート部門の人々をほとんどリスペクトしていなかったし、全員死ねばいいとすら思ってた。
彼らはみんな去って行った。マーケティングは崩壊し、サポートはFUBAR (Fucked Up Beyond All Recognition = 見る影もない状態) だった。
新しいユーザーを連れてくるマーケティング部門と、ユーザーを助けるサポート部門が無い会社がどうなるか、ビジネスの学位を持ってなくても分かるよね。
Q:今後のソナーの開発について知っていることがある?もしあるなら内容を教えてほしい。
A:今後のことは何も知らない。ギブソンに残ってソナーに携わる人の名前を聞いたけど、アップデートは期待しないほうがいい。
Q:収益性の面で、Mac 版SONAR の開発はどれぐらいの影響があった?問題があったことを公表していたけど、内部でどれほどコミュニケーションを取っていたのか気になる。
A:実際のところ、Mac 版にはそれほどコストはかかっていないんだ。
実作業はCodeWeavers* という会社が担当していて、ウチからは1人の開発者がパートタイムで関わっていただけだった。
(*アメリカのソフトウェア企業。ウィンドウズ用ソフトをMac やLinux で動かす、CrossOver というソフトで知られる)
そしてちゃんとしたものを作るには、当初の見込みよりも遥かに多くの努力とリソースが必要だと分かったとき、計画は破棄された。
すでに評価が確立しているMac 用DAW と争うのは、負け戦に挑むようなものだった。
仮に技術面の課題を乗り越えたとしても、ウチには新規ユーザーを獲得する (もしくは他のDAW ユーザーを転向させる) のに必要なマーケティングパワーが無いしね。
また開発力の分散という問題もあった。ウィンドウズ専用だが高品質なDAW と、ウィンドウズとマックに対応するがパッとしないDAW という選択肢があり、我々は前者を選んだ。
Q:ケークウォークの従業員にソナーユーザーは居るの?
A:イエス
Q:無駄な新機能を排除するためのレビューシステムは無いの?
A:すべての人が気に入るソフトを作るのは不可能だよ。SONAR も例外ではないし、進化するには捨てなきゃいけないものもある。
Q:機能は増やすのに、昔からあるバグを修正しないのはなぜ?
A:「バグを減らしたよ!」は売りにならないけど、「新しいピカピカのボタンを追加したよ!」は売りになる。だから毎年新しいバージョンを発売するんだ。
ただローリングアップデートを採用したことで、その手の話に悩まされることはなくなり、長年放置されていたバグの修正に取り組めるようになった。
ここ3年ほどのSONAR は、安定性の向上に注力できたという点で、個人的には最高の状態だったと思う。
Q:余計な機能を増やしすぎ。
A:君にとっての余計な機能は、別の人にとっては最高に便利な機能かもしれない。誰かをイラつかせるために機能を追加したことはないと誓うよ。
Q:X1 からX3 への進化は目覚ましかった。遅すぎた?多分ね。
A:最初のX1 は本当に荒削りだった。
抄訳は以上です。原文では他にも興味深い会話が繰り広げられているので、興味の湧いた方は下のソースリンクからどうぞ。
ソース
Reddit - Former employee here. AMA.
参考リンク
Cakewalk
タスカム - Cakewalk 社製品ついてのお知らせ
Neat Microphones
KVR Audio - An interview with Michael Hoover from Cakewalk
Gibson - Gibson Brands Launches Neat Microphones Division
Gibson - Henry Juszkiewicz
Greghendershott.com
CodeWeavers
サウンドハウス - Gibson 一覧
関連記事
ギブソンがSONAR を含む全Cakewalk 製品の開発終了を発表、今後はPhilips に注力
ギブソン、米国製レスポールにボリュームノブを3つ付けて出荷
ギブソンがメンフィス工場を売却、規模を縮小して移転
マストドンのビル・ケリハー「ギブソンはアーティストをクソみたいに扱う。あの会社は終わってる」
ブログの更新情報はTwitterとFacebookでお知らせしています。
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 件のコメント:
コメントを投稿