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2016/02/21

海外エフェクター業界よもやま話:Devi Ever / Fuzz Goddess のクラウドファンディングが頓挫、出資者に4万ドルを返金中


ギアオタ管理人が海外のエフェクターBBS を巡る中で見つけた面白エピソードを紹介する「海外エフェクター業界よもやま話」。

その栄えある(?)第1回は、米国のエフェクターメーカーDevi Ever (改名して現在はFuzz Goddess) が巻き起こした騒動をご紹介します。長いので飲み物でも片手にご覧ください。



今から遡ること約4年前の2012年5月31日。クラウドファンディングサイトKickstarter で、Devi Ever が新製品への出資を求めるキャンペーンを開始します。

Console と名付けられたその製品は、ファズやディレイなどのカートリッジを差し替えることで、様々なエフェクターに変身できるというユニークなものでした。

プロギタリストにも愛用者の多いDevi Ever の企画ということに加えて、Analogman やEarthQuaker Devices、Empress Effects、Wampler Pedals といった著名なエフェクターメーカーがカートリッジ開発に興味を示したこともあり、最終的に217人の出資者から約4万ドルを集める大成功に終わります。

しかし成功したのはここまででした。当初の予定では、キャンペーン終了から1年後の2013年5月に、該当する出資者に対しConsole を出荷する予定でしたが間に合わず。

その後も完成予定日が伸び続けるなか迎えた2013年12月4日、ついにDevi 氏は "I have failed" (私は失敗した) という言葉とともにConsole 計画の失敗を公にします。

失敗の理由は運営上の不手際で資金が枯渇し開発が継続できなくなったため。

集めた4万ドルのうち半分はConsole の開発に使われ、もう半分はDevi 氏のビジネスと個人的な用途に使われたとのことです。

出資者に対しては返金と、返金の代わりにDevi Ever のエフェクターをもらうという2つの選択肢が提示されています。

また同時にDevi 氏はエフェクター業界からの引退も発表します。理由はConsole の失敗に加えて、エフェクター業界を取り巻く環境の変化、そして最も大きな理由としてエフェクターへの情熱を失ったことを挙げています。

引退に伴い、Devi Ever ブランドは親交のあるエフェクターメーカーDwarfcraft Devices に売却し、売上の一部をロイヤルティーとして受け取る契約を締結。

そしてDevi 氏は名前をGrace Lynn と改め、新たな興味の対象となったビデオゲームの開発に注力すると宣言します。

しかしゲーム開発は思うように進まず返金も停滞。キックスターターのコメント欄や各種SNS には、返金を求めるコメントや非難が相次ぎます。

そのような状態のまま1年が過ぎた2014年11月27日、デヴィ・エヴァー改めグレイス・リン氏は、突如手持ちのお金を米国のフェミニスト系YouTube チャンネルFeminist Frequency に寄付したとツイートし、その証拠として支払画面のスクリーンショットも公開します。

返金が終わっていないにもかかわらず寄付をするという、出資者の神経を逆なでするような行為に人々は猛反発。それに対しリン氏は 「suck my dick (くたばれ)」と吐き捨てます。


また寄付先のFeminist Frequency を運営するAnita Sarkeesian 氏は、米国のゲーム業界を騒がせているゲーマーゲート事件の中心人物でもあるため、この行為はエフェクター業界のみならずゲーム業界からも注目を集めることとなりました。

(ゲーマーゲートの概要は本記事最下部の4Gamer へのリンクへどうぞ)

これら一連の言動で風当たりが一層強まる中、リン氏はツイートから6日後の12月3日に、キックスターターへ "Sue me" (私を訴えてください) という見出しの投稿をします。


内容を抄訳すると、「これは冗談ではありません。出資者でない人まで巻き込んで嫌がらせをし、ストーカーのように日常生活を脅かす人々がいます。私は無一文で健康保険料すら払えません。すべてを終わりにしたいのです。どうか私を訴えてください。私を法廷に連れて行ってください。嫌がらせをやめてください。心からのお願いです」

リン氏はこの投稿の直後に、出資者のみ閲覧できる"Refund information" (返金について) という投稿をし、翌2015年も進捗報告を続けています。

この様子を見る限りでは、なんとか生活は維持できており、本気で訴える人も居なかったようですが、金銭的に逼迫するとともに、精神的にも混乱していたことがうかがえます。

とはいえ安定した収入がなく、返金も遅々として進まない状況に変わりはありません。

その状況を打開するため、リン氏は2015年8月9日のキックスターターへの投稿 "August 2015 update" で、決別したはずのエフェクター業界への復帰を宣言します。

出資者に対しては、ペダル販売の収入とドワーフクラフトからのロイヤルティーを合わせることで、安定した返金が可能になると説明しています。

この投稿の後、リン氏は自分の名前をデヴィ・エヴァーへ戻すとともに、新たにFuzz Goddess (ファズの女神) というエフェクターブランドを設立。

32種類という個人ビルダーとしては膨大な製品ラインナップを用意し、先日には日本の輸入販売元も決まるなど順調に活動しているようです。

(Image from Fuzz Goddess)

ここで終われば大団円まではゆかずとも小団円ぐらいには収まりそうな話ですが、決着が付いていないもう一つの問題があります。

その問題とは、ドワーフクラフトがDevi Ever ブランドを購入する際に、今後デヴィ氏がエフェクター業界に復帰しないことを条件として提示し、デヴィ氏がそれを承諾していることです。

ドワーフクラフトとしては、デヴィ氏が復帰して新たなブランドを立ち上げることで、せっかく買ったDevi Ever ブランドの価値が下がることを危惧したために、そのような条件を提示したのかもしれません。

しかしデヴィ氏も返金しながら生きてゆくにはペダル作りに頼らざるを得ないため、どちらも譲らない様子です。

ちなみにDevi Ever ブランドの売却条件は「5000ドル+ペダルの売上の5%」。デヴィ氏は安売りしすぎたと後悔しているようです。またDevi Ever ブランドの買い戻しを希望するも、拒否されたことも明かしています。

なおドワーフクラフトは1週間ほど前に、Purge (粛清) というクーポンコードを入力するとDevi Ever 製品を25% 引きで買えるセールを開催していました。

コードの言葉から想像するに、近いうちに何らかの動きがあるかもしれません。

(Image from Fuzz Goddess)

これまでデヴィ氏は、前述の謎の寄付や「くたばれ」発言のほかにも、性転換手術の資金を募るクラウドファンディングを始める(デヴィ氏は肉体的には男性として生まれた性転換者です)など、奔放な言動でエフェクター業界に話題を振りまいてきました。

とかくその言動に注目が集まりがちですが、ユニークなエフェクターを生み出すデヴィ氏の才能は多くの人が認めるところです。

今後は本業のペダルで注目されることを願うとともに、キックスターターの出資者が少しでも早く返金を受けられるよう、Fuzz Goddess の成功を祈りたいと思います。

ソース: Kickstarter - CONSOLE open source cartridge based fx platform for guitar
参考: Crowdfund Insider - Kickstarter-Success CONSOLE Goes Unfinished
Reaxxion - Grace Lynn Funds Feminist Frequency With Money From Failed Kickstarter Project
Indiegogo - Devi Ever : Fuzz Goddess
Devi Ever : Fuzz Goddess (Facebook)
Dwarfcraft Devices (Facebook)
Devi Ever Fx - Devi Ever's fancy new Vagina
Fuzz Goddess
4Gamer.net - Access Accepted第440回:北米ゲーム業界を揺るがす“ゲーマーゲート”問題

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