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2016/09/23

有名ギターメーカーのメンテナンス術:ギブソンは水拭き推奨、マーティンはレモンオイルを否定


ギターやベースのメンテナンス方法について、巷では色々な説が語られています。一体どれを信じたものやらと悩ましいところですが、それならギターメーカーに聞くのが確実だ、ということで有名メーカーのメンテ術を調べてみました。



まずは110年以上の歴史を誇るギブソンから。公式サイトに掲載されているメンテナンス方法は、

指板:
  1. 基本は固く絞った柔らかい布で水拭き→乾拭き。布は古いTシャツや靴下でよい。
  2. 頑固な汚れは目の細かいスチールウール(#000や#0000)や歯ブラシ、爪楊枝、クレジットカードの端などで優しくこすり落とす。
  3. 木が乾燥している場合は、清掃後に指板コンディショナーや市販のオイル(ミネラル、アーモンド、リンシード)で保湿する。量は1~2滴で十分。

筆者注:ミネラルオイル(鉱物油)は流動パラフィンともいい、身近なところではベビーオイルの、ギター用品ではGHS Fast Fret の原料として使われています。これを固形にしたものがワセリンです。

またアーモンドオイルはアロマエッセンスのキャリアオイル(薄め液)や化粧品として、リンシードオイル(亜麻仁油)は油絵の具の溶き油として市販されています。


ボディ:
  1. 基本は柔らかい布で乾拭き
  2. しつこい汚れは固く絞った布で水拭き
  3. ツヤを出す場合は研磨剤を含まないポリッシュで磨く

メンテナンスの頻度:
  • 指板:頻繁に弾くギターでも年に1~2回で十分
  • ボディ:随時


指板の頻度が少ないように思えますが、ギブソンいわく指の油には指板の乾燥を防ぐ役割があるので、頻繁に取り除かない方がよいとのことです。

逆に考えると、あまり弾かないギターの指板は定期的に保湿する必要があるとも言えます。

なおギター用品として日本では馴染みの薄いスチールウールですが、Kiesel Guitars (旧Carvin) も使うなど米国では定番的存在です。



上はKiesel の社長による実演動画。オイルフィニッシュのメイプル指板をスチールウールでクリーニングしています。

仕上げに塗っているオイルはミンワックス社のタングオイル (Tung Oil / 桐油)。アブラギリという木から採れる油で、木製家具の保護などに使われます。

なお塗装済みの指板はスチールウールで磨くと塗装が剥がれるので、布拭きをおすすめします。


次はアコースティックギター界の大御所マーティン。こちらも公式サイトでメンテ方法を説明しています。

基本は水拭きというのはギブソンと同じですが、レモンオイルを使わないよう呼びかけているのが興味深いところです。

理由はレモンオイルの酸が塗装を破壊し、フレットと弦も腐食させるため。メンテグッズとして定番のレモンオイルですが、1833年創業という歴史あるメーカーの言葉だけに説得力があります。


では他のメーカーはレモンオイルについてどう考えているのかというと、たとえばテイラーは年に1~2回、ごく少量であればレモンオイルを使っても問題ないとしています。しかしこれは使いすぎると悪影響があるということでもあります。

下はエリクサーとテイラーが作成したメンテナンス動画。指板はスチールウールで掃除した後にリンシードオイルで保湿し、ボディとネックは自動車用ワックスで磨いています。

自動車用ワックスとは驚きですが、Suhr のジョン・サーも自動車用やバイク用のポリッシュは研磨剤が入っていなければ問題なく使えるとしています。



そのジョン・サーはレモンオイルについて、過去に指板クリーニングに使っていたものの、指板の水分を奪っていることに気づいてからは使わなくなったと述べています。

その後はRoche Thomas のPremium Fingerboard Oil を使っていましたが、入手が難しくなった現在は、100% ミネラルオイルのBig Bends Fret Board Juice を使っています。

またSuhr の工場はビッグベンズ製品を常備しており、全製品にNut Sauce とGloss Sauce を使っているとのことです。

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これら一流メーカーの意見を元にメンテナンス方法を考えてみると、

  • 基本の掃除はボディ=乾拭き、指板=水拭き
  • 指板の頑固な汚れはスチールウールや歯ブラシなどで落とす
  • 指板の乾燥対策には指の脂 or ミネラルオイルなどを塗る

といったところでしょうか。ギター専用の道具を揃える必要はなく、日用品で十分対応できます。またレモンオイルはできるだけ避けたほうがよさそうです。

なお日本ではレモンオイルと並んでオレンジオイルも広く使われていますが、海外ではほとんど使われていません。

その理由は定かではありませんが、日本の楽器店でよく見るハワードのオレンジオイルは本来家具用であり、海外ではホームセンター向けの商品であるということが要因のひとつとして考えられます。

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HOWARD Orange Oil OR0004 オレンジオイル
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実際にギターセンターやミュージシャンズフレンド、スウィートウォーターといった米国の大手楽器店は、ハワードのオレンジオイルを取り扱っていません。

また日本向けのラベルにはギター用と書かれていますが、米国向けのラベルや公式製品ページには、ギターに関する記述はありません。

もしかすると日本の代理店がギター用として売るために、ハワード社へ専用ラベルの作成を依頼しているのかもしれません。

(国内版)

(海外版)

なおオレンジオイルの洗浄力の源であるD-リモネンにはゴムやプラスチックを溶かす性質があり、シールはがし剤の原料としても使われています。

そのためギターのポジションマークやインレイ、バインディング、指板とネックの接着面などに悪影響を与える可能性は否定できません。性質を考えるとレモンオイル以上に注意して使う必要がありそうです。

参考リンク
Gibson - Rag-Time: How to Clean Your Guitar for Better Tone
Gibson - 20 Tips for Guitar Care
Martin & Co. - Guitar Care
Taylor Guitars - Fretboard Oil
TGP - Pure orange/Lemon oil #15 (Suhr の投稿)
TGP - Fretboard Oil/Conditioner? #8 (Suhr の投稿)
Suhr Forum - What guitar polish is used at the Suhr factory?
Roche Tomas - Premium Fingerboard Oil
Big Bends
イケベ - Big Bends (国内代理店)
Howard Products
ゼンブ・ジャパン - Howard (国内代理店)
Weber Packaging Solutions - Furniture Polish Labels
いらすとや
サウンドハウス - オイル/クリーナー 一覧

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