海外のベースフォーラムの不文律に、「ワーウィックのスレッドでスペクターの名前は出さない (逆も然り)」というものがあります。
その理由は、ワーウィックの看板モデルStreamer と、Spector の代表作NS シリーズの正統性について、喧喧囂囂の論争が始まってしまうからです。
本記事のトップ画像は、左がワーウィックで右がスペクター。かろうじてブリッジで見分けはつきますが、ボディの形状はほぼ同じです。
本記事では、この論争になるほどそっくりな2つのベースについて、歴史と現状を解説します。
(Spector NS-2)
それぞれの会社の歴史をまとめると、まずスペクターはStuart Spector が1976年に米国ニューヨークで創業。
翌1977年には、友人の家具デザイナーNed Steinberger と共同設計した、シングルPU のエレキベースNS-1 を発売し、大きな注目を集めます。
その後1979年には、2基のピックアップを搭載したNS-2 を発売。世界的な人気を確立します。
ちなみにこの家具デザイナーこそが、後に革新的なヘッドレスギターを生み出して世界に衝撃を与える、スタインバーガーその人です。
NS という製品名も、ネッド・スタインバーガーの頭文字から取っています。
(Warwick Streamer)
そんなスペクターの人気に目をつけたのが、ドイツのワーウィック。
1982年に創業したものの、ヒット製品が生まれず経営に行き詰まっていた同社は、苦肉の策として、欧州では入手が難しかったスペクターのコピーを作り始めると、これが大当たり。
このStreamer と名付けられた無許可のコピー品は、1983年に発売されるや欧州で大人気となり、経営状況も好転します。
しかし泥棒稼業はうまくいかないのが世の常。1985年のMusikmesse (現在も続く欧州最大の楽器見本市)に出展したところ、ちょうど来場していたスチュアートとネッドに見つかってしまいます。
最大の収入源を失う危機に直面したワーウィック創業者Hans-Peter Wilfer は、2人と直接交渉し、ライセンス料を支払うとともに、ヘッドへ「Licensed by Spector」と表記するという条件で、Streamer の製造を続ける許可を得ます。
これによってワーウィックの経営は安定し、Streamer と並ぶ看板モデルThumb Bass を生み出すなど、世界的なベースメーカーへと成長してゆきます。
ここで終わればそれなりにグッドエンドだったのですが、残念ながら本家本元であるスチュアートには多くの困難が待ち構えていました。
事の発端は、ワーウィックと契約したのと同じ1985年に、スペクター社をKramer に売却したことから始まります。
売却後はスペクターブランドの責任者に就き、楽器のデザインにも深く関わっていましたが、そのクレイマーは1990年に、HR/HM ブームの終焉とともに破産してしまいます。
さらに悪いことは続くもので、クレイマーの知的財産にはスペクターの商標も含まれていたため、スチュアートはそれを取り戻すために8年間も裁判で争うことになります。
裁判で闘うと同時に、スチュアート自身は新会社Stuart Spector Designs (SSD) を設立。
NS ベースのデザインを保持するスタインバーガーらの協力もあり、再び独立したメーカーとして活動を始めます。
そして長きに渡る裁判の末、スペクターの商標を取り戻すと、なんと今度はワーウィックがクレイマーへライセンス料を払っておらず、クレイマーも積極的に請求していなかったことが明らかになります。
さらにヘッドへ「Licensed by ~」と表記する契約も守られていませんでした。
そこでスチュアートはワーウィックに対し支払いを求める訴訟を起こしますが、すでにStreamer は独自の進化を遂げており、NS とは異なる製品になっていると判断され、敗訴します。
つまり現在のStreamer はワーウィック独自の製品であり、スペクターのコピーではないということになっています。
しかしながら法的には別物であるものの、依然として見た目はそっくりです。目立つ違いとしてはブリッジの形状、ヘッドの形状、チューニングペグの取付角度ぐらいでしょうか。
そのため、特にスペクターの地元である米国のフォーラムでは、しばしばワーウィックを全力でディスる(そしてフォーラムの管理人に怒られる)、熱烈なスペクターファンの姿が見られます。
また筆者はドイツ語がわからないため想像になりますが、ドイツのフォーラムにはスペクターをディスる(そしてやはり怒られる)、熱いワーウィックファンが居るのかもしれません。
とはいえ米国のフォーラムを見ていると、法的な結論が出ているのだから好きな方を選ぼうぜ、的な考えを持つベーシストが大半ではあります。
本記事を読んで両社の歴史を知った日本のベーシスト諸兄姉は、どんな選択をするのでしょうか?
参考リンク
BassPlayer.com - Meet Your Maker: Hans-Peter Wilfer of Warwick
Talkbass.com - Spector NS body shape and Warwick - What´s the bottom line?
Wikipedia - Streamer Bass
Spectorbass.com
Warwick
NS Design
Spectorworld.com (スペクターのファンサイト。NS のプロトタイプなど貴重なベースの姿が見られます)
サウンドハウス - Warwick 一覧
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